能登豪雨に沈んだ仮設住宅、4割が浸水想定区域に建設 頻発する災害と「新しい日常」

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石川県能登地方で河川の氾濫や土砂崩れが多数発生した記録的豪雨では、元日の能登半島地震で被災し家を失った人々が入居する仮設住宅が床上浸水の被害を受けた。住民からは、そのような場所に仮設住宅が建設されたことへの非難の声もある。なぜ、災害を完全に避けられる場所が選ばれなかったのか。

石川県珠洲(すず)市立上戸小学校のグラウンドに配置された「上戸町第2団地」では21日午前9時ごろに近くを流れる川が氾濫、一気に水が仮設住宅に押し寄せた。一部の仮設住宅は床上まで浸水、住民らは声を掛け合って小学校の体育館に避難した。

80代の女性は「一番ショックなのは、布団が完全に泥水につかってしまったこと。何カ月も体育館のマットを布団にして生活してきて、やっと柔らかい布団で寝られると思っていたのに、あまりにもひどい」と嘆いた。

石川県の発表によると、22日午後4時現在で確認された仮設住宅の浸水被害は珠洲市と同県輪島市で計9地区。中でも輪島市の3地区の仮設住宅は、同市の洪水ハザードマップで床上以上の浸水被害が想定されていた。

このうち輪島市内の仮設住宅「山岸町第2団地」では近くの河原田川が氾濫し、浸水。近くの市立輪島病院に避難して一夜を明かした伊富うめ子さん(79)は「急いで避難したが、道中は膝上くらいまで水が上がっていた。流されるんじゃないかと不安で怖かった」と声を震わせた。

石川県の発表によると、8月21日時点でも被災地の体育館や公民館などに設けられた1次避難所に450人以上が身を寄せ、仮設住宅への入居を待つ人も多い。珠洲市若山町で自宅を失い、仮設住宅への入居を希望する男性(63)は、今回の豪雨で仮設住宅に浸水被害が出たことに落胆。「被災した仮設住宅を修理していたら、まだ入居していない人はさらに後回しになる。結局、また多くの人が寒い冬を震えながら車や体育館の中で過ごさなければならない」とし、「川のそばなどに安易に設置せず、考えて対処すべきだった」と訴えた。(土屋宏剛、鈴木文也)

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仮設住宅の4割超が浸水想定区域

なぜ、洪水の浸水想定区域内や危険な川の近くに仮設住宅が整備されたのか。石川県の担当者は「建設場所に選択肢はほぼなかった」と実情を明かす。

今回の豪雨で大雨特別警報が出された輪島市珠洲市能登町で建設済みの仮設住宅戸数は4731戸。うち4割を超える1945戸が洪水浸水想定区域に含まれ、約24%の1157戸が土砂災害警戒区域に入っていた。このほか津波の浸水想定区域に含まれる場所もある。

県建築住宅課の担当者は「ハザードマップにかからない地域だけでは、需要に建設が追い付かなかった」と振り返る。

地元での生活再建を目指す被災者にとって仮設住宅への入居は日常を取り戻す足がかりとなるため、需要は多い。だが能登半島には山間部が多い一方で平野部が少なく、適地が限られるため用地の選定に時間を要した。

実際、地震発生から9カ月になろうという今も整備は終わっておらず、輪島と珠洲の両市では計377戸が建設中だ。

県の担当者は「山間部で仮設住宅を整備しても時間と費用がかかるうえ、買い物など住民の日々の生活に支障がある」と説明。輪島市の担当者は「地形上、完全に安全な場所はなく、ハード面の対策ばかりに頼れない。いざというときの迅速避難など、命を守る防災意識の向上に努める」と釈明した。(藤谷茂樹、宇山友明)

 

「甚大化する災害 『新しい日常』と捉え議論を」 片田敏孝・東京大大学院特任教授(災害社会工学

1月に最大震度7もの地震が発生した能登半島で再び豪雨被害があったことは「神も仏もない」と思う無慈悲な状況だ。仮設住宅入居者が地震に続き、浸水被害と度重なり被災したことは事実で、これから力強い支援が必要不可欠だ。

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【 片田敏孝・東京大学大学院特任教授】

復旧、復興に必要とされる仮設住宅は入居期間も2年と限られ、建設までのスピードこそ重要だ。このため、津波、洪水、土砂災害すべての災害を完璧に避けられる場所を用意することは不可能であり、災害があったこと自体は不可抗力と受け止めざるを得ない。

地盤が4メートルも隆起するような規模の地震、雨量が観測史上最大を更新するような豪雨。能登半島に限らず、どこでも甚大な被害が起こりうるなか、災害をコントロールできるという発想は限界を迎えている。災害が甚大化、頻発する異常事態を新しい日常(ニューノーマル)と捉え、社会としてどう立ち向かうのかという視点で議論すべきだろう。

個人が行政の庇護(ひご)下にある構図から脱却し、個人や家庭、地域が行政から受け取った情報をどう生かし、どう行動をとるのかが重要になっている。(聞き手 藤谷茂樹)

引用元:産経ニュース