実在する警察の電話番号を偽装表示させ、警察官になりすまし、現金をだまし取ろうとする特殊詐欺事件が相次いでいることがわかった。九州・山口の各県警への取材で、昨年7月以降、少なくとも5件起きていたことが判明。うち福岡県内では3月に2件発生し、計約1600万円を詐取されていた。同県警はインターネット回線を使い、発信元の電話番号を自由に表示する技術を悪用した犯行の可能性があるとみて、警戒を強めている。(相良悠奨)
「保釈金払って」
3月31日、福岡県内の会社員男性(20歳代)のスマートフォンが鳴った。画面に表示された電話番号の末尾は「0110」。電話口の男は高知県警の警部を名乗り、「あなたの口座が詐欺グループに利用されており、あなたも容疑者の一人だ。逮捕されないためには保釈保証金を支払う必要がある」と言った。
男性は戸惑ったが、番号の末尾の「0110」が警察の電話番号として使われていることを知っていたこともあり、「本物の警察だと思った」という。両親や消費者金融から借金するなどして、指示された口座に計約800万円を振り込んだ。その後、連絡は途絶え、被害に気付いた。
スマホの画面に表示されていたのは、実際の高知県警本部の代表番号。ただ、その前に国際電話であることを示す「+1」から始まる番号も記されていた。男性は「家族に迷惑をかけ、将来のための貯金も失った。冷静に対処すべきだった」と肩を落とす。福岡市内の20歳代男性にも3月、高知県警本部の番号が表示された電話があり、800万円をだまし取られた。
九州・山口・沖縄の各県警によると、警察の電話番号を偽装表示させる特殊詐欺事件は、福岡の2件のほか、昨年7月に佐賀で2件、昨年10月に山口で少なくとも1件起きた。
佐賀はともに実在する県外の警察署の番号で、警察関係者をかたる人物から「あなたの電話から詐欺のメールが多数送られている。口座と残高を教えてほしい」などと言われた。表示された警察署の番号にかけ直して詐欺と気づき、未遂に終わった。山口でも、実在する警察署の番号から電話があり、「NTTの未納料金がたまっている」などと言われたが、不審に思って警察に相談し、被害はなかったという。
海外でも発生
発信者番号を偽装した「なりすまし電話」は、「スプーフィング」とも呼ばれ、海外でも発生している。在ニューヨーク日本国総領事館は昨年4月、ホームページで、米国で地元警察を偽装表示した番号からの電話が在留邦人にあったと公表し、注意を呼びかけた。
情報セキュリティー会社や特殊詐欺に詳しい神戸大の森井昌克教授(情報通信工学)によると、インターネット回線とともに、専用のプログラムやアプリを使うことで任意の番号を相手方に表示することが可能。電気通信事業者を通さないため、回線切断などができず、抜本的な対策は難しいという。森井教授は「被害が広がる可能性もあり、表示された番号だけで電話の相手を信用するのは危険だ」と指摘する。
警察は、非常時の安否確認や落とし物の連絡で警察署の固定電話から住民らに電話することも多く、福岡県警幹部は「末尾の『0110』は警察の電話だという証し。信用されなくなれば業務に支障がでかねない」と懸念を示し、「警察が金銭を電話で要求することはない。怪しい電話はすぐに切り、警察に相談してほしい」と呼びかけている。
Yahooニュースより引用