つい出てしまった「ため息」に、家族から「気分が悪くなるからやめて」と嫌がられた。意図的ではなくても、最近では、ため息は周囲を不快にさせる「ハラスメント」と捉えられる可能性もあるようだ。
<ため息って精神的なハラスメントの類だと思う。相手がいる前でのあからさまなため息は、相手に罪悪感や不安、責められているような気持ちを抱かせる> <「はぁ…」 電車で前の男の人がため息。その気持ち、分かるよ…でも!「ため息はネガティブビーム」とハラスメント研修では言っています> <無意識なため息はパワハラ> X(ツイッター)にはそんな書き込みが少なくない。ため息はフキハラ(不機嫌ハラスメント)になる――? ◇日本ハラスメント協会の見解は 企業の対策を支援する「日本ハラスメント協会」(大阪市西区)の村嵜要代表理事によると、特定の人を前に、ため息を一度つく程度ではハラスメントにはならない。ただ、たとえ無意識でも、何度も繰り返したり、険しい顔や舌打ちなども重なったりした場合、不機嫌な態度や表情で相手に精神的な苦痛を与える「不機嫌ハラスメント」(フキハラ)に該当する可能性があるという。 職場で不機嫌が周囲に伝わると、空気が悪くなり、気軽に質問したり、話しかけたりできなくなる。意思疎通が滞ることで生産性が落ちるだけでなく、対処すべき問題を把握できず、深刻な影響につながるリスクもある。 村嵜さんは「『加害者』は不機嫌な態度や表情をしているとの自覚がない場合も多い。集中していれば怖い顔になりがちで、誰もが加害者になると気を付けた方がいいですね」と忠告する。 フキハラは国による定義や法規制はないが、村嵜さんによると、相談は増えているという。パワハラ対策などが進んだ影響で以前より職場ではコミュニケーションが減り、同僚に注意することが難しくなった。「たまった疲労や不満が表情や態度に知らずに出てしまうことで、新たなハラスメントと捉えられている」と推測する。 企業が対策を進めているとは言えず、機嫌によって極端に態度が変わらないようにそれぞれが意識を高めるしかないのが現状だ。 ◇産業医「ため息はポジティブな側面も」 一方で、産業医・精神科医の井上智介医師は「ため息は、体を整えようとする防衛反応で、ため込むのは良くない」と指摘する。 ため息は、ストレスや緊張で呼吸が浅く早くなり、酸欠状態の体を緩めようと無意識に出る呼吸でもある。何度も出る時、うつなどの病気が隠されている場合もあるという。その上でこう指摘する。 「自然と出る『くしゃみ』も異物を外に出す反応で体には良いが、周囲からみたら気持ちの良いものではなく、エチケットは求められる。ため息も人前では大げさにならず、音を立てないよう心がけるなどTPOに合わせる工夫が必要でしょう」 一番の対策は、ストレスの原因を取り除くことだが、すぐにできる有効な方法は「深呼吸への切り替え」という。 意識的に長く行う深呼吸の方が「よりストレスの発散効果は高い」といい、井上医師は「6秒程度、ゆっくり息を吐くことに集中する。リラクセーションのようで周囲に不快感を与えにくい」と提案する。 ため息は「幸せが逃げる」と言われるように、ネガティブなイメージが強いが、安堵(あんど)した時や、きれいな景色を見た際にも漏れるなど、本来はポジティブな側面もある。 井上医師は「『ため息は心のバランスを取っている』との知識があれば、『ため息が多いけど、大丈夫?』と相手を気遣うような受け止め方もできるようになるのではないでしょうか」とアドバイスする。【稲垣衆史】